

◆舞台は3万年以上前の東ヨーロッパ。
北には氷河が迫り、誰もこの地域をヨーロッパと呼ばない時代。
大地震で家族を失ったクロマニヨン人の少女が、ネアンデルタール人に拾われ、成長していく物語。
シリーズの原題は“Earth's Children”「大地の子どもたち」です。
非常に長いシリーズのうち、第1巻(上下2冊)が本書「ケーブ・ベアの一族」です。
これを歴史小説と呼んでいいのかわかりません。
頼りにできるのは考古学の資料だけであり、どちらかというとファンタジーだと思います。
しかし、世界史ですっとばされてしまう先史時代のイメージを掴むためにはぴったりの本だと思います。
1人の人間の成長物語としても非常に面白く、アメリカではベストセラーになっていたようです。
◆直立二足歩行を特徴とする人類の誕生は、約700万年前とされています。
文字を発明して、ものごとを記録するようになってから(狭い意味での「歴史」がはじまってから)、まだ5000年ほどしかたっていません。
つまり、人類史の99.9%は先史時代ということです。
人類の進化は、一般に猿人、原人、旧人、新人と進んできたと説明されます。
ネアンデルタール人は旧人に属し、約60万年前から約3万年前まで地球上に存在していました。
旧人以来のものもありますが、言語を用いたコミュニケーション、火の管理、石器・毛皮の使用などを行い、狩猟・採集で生計を立てていたことがわかっています。
ネアンデルタール人は、骨格、顔つきや体格が現代の人類とは異なっていました。
生活はギリギリで、当時のネアンデルタール人の人口は世界全体でも1万数千人程度であったとする説もあるようです。想像もできないくらい、ものすごい過疎ですね。
▼ネアンデルタール人の頭部模型(想像)

By Tim Evanson [
CC BY-SA 2.0],
via Wikimedia Commons
ネアンデルタール人について、特に興味深いのが死者の埋葬が行われており、精神文化が大きく発達していることです。
埋葬された遺体の中には障害を負った遺体もあります。つまり、障害があっても仲間と助け合いながら生活できたということです。
これは、動物とは大きく異なる部分だと思います。
他者への「思いやり」が人間にとって重要であると、著者は冒頭の文章で述べています。
◆一方、クロマニヨン人は新人に属し、約20万年前にあらわれたと考えられています。
この新人こそ、現代に生きる人類の直接の祖先に当たります。
フランスのラスコーやスペインのアルタミラの壁画は、クロマニヨン人によるものです。
彼らは約1万年前の氷河期の終わり以後も生き延び、約9000年前に農業をはじめ、急速に発展を遂げていくことになります。
面白いのは、単純にネアンデルタール人が進化してクロマニヨン人になった、とは考えられていないということです。
両者は進化の分岐の先を、それぞれ別に歩んでいたようなのです。
つまり、ネアンデルタール人とクロマニヨン人は、進化の分岐を並行して走っていたのです。
10万年以上の長期に渡り、ネアンデルタール人とクロマニヨン人は地球上に同時に存在した、2つの人類なのです。
最近の研究では、両者の接触や、もっといくと交配(と書くと動物っぽいですが)があったのではないかということも主張されているようです。
我々はネアンデルタール人(旧人)の血も引いているかもしれません。
◆前置きが長くなりましたが、こんな先史時代に着想を得てつくられたのが、この物語です。
当時の生活を描く興味深い描写を少しだけ紹介します。
問題です。器を火にかけずに、中の水をお湯に変えるにはどうすればいいでしょうか?
正解は…(以下反転)
器の中に火で焼いた熱々の石を入れる、というものです。石焼鍋の逆の発想ですね。
これにより、土器がなくとも、また動物の皮や植物で作った器などでもお湯を用意することができました。
(反転終わり)
▼ネアンデルタール人の使った石器

(Public Domain/Wikimedia Commons)
個人的に最も好きなシーンはマンモス狩りです。
一族の人間が、力を合わせてマンモスに立ち向かう様は、迫力満点で手に汗握るものでした。
先史時代は、○○人と石器の暗記で面白くないと感じた人に、ぜひおすすめしたい一冊です。
◆参考:ジーン・アウル 著/大久保寛 訳『エイラ―地上の旅人 ケーブ・ベアの一族』(上・下)集英社、2004(1980、アメリカ)