
『善き人』(2008、イギリス・ドイツ)
原 題:GOOD
監 督:ヴィセンテ・アモリン
上映時間:96分
おすすめ:★★☆
◆舞台は第二次世界大戦前夜のドイツ。
アドルフ・ヒトラーが権力を握り始めた頃から始まります。
主人公は、家族思いの優しい父、大学で文学を教えているジョン・ハルダー。
彼は自分の小説をヒトラーに気に入られたことをきっかけに、生活のためナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)へ入党します。
ユダヤ人の友人がいるハルダーはナチスへの疑問も抱いていました。
しかし、時代の流れに逆らうことができず、ハルダーはついにナチスの親衛隊に入り、その幹部にまでなってしまいます。
一方で、ナチスによるユダヤ人迫害も本格化。
ハルダーは幹部の特権を生かしてモーリスを国外へ脱出のさせようとするも失敗、モーリスは混乱の中で行方不明になってしまいます。
1939年、ドイツは第二次世界大戦に突入。
戦時中の1942年、モーリスを探すために彼が訪れたのは、送りこまれたユダヤ人10人の内9人がその日中に「処分」されていく強制収容所でした。
そこに来て初めて、彼は自分の無意識の行動がいかに多くの悲劇を生んでいたのかに気がついたようでした。
強制収容所は、どこか現実感がなく、ふわふわとした不思議な映像でした。
死が当たり前となってしまった状況の奇妙さを、上手く描いているのではないかと思います。
▼1936年、ダッハウ強制収容所を視察するハインリヒ・ヒムラー(Wikipedia)
◆『ヒトラー最後の12日間』を観た後だと、親衛隊が英語で話しているのに違和感があります。
ただ、イギリスの演劇が原作のようなので、これは仕方がないですね。
主演のヴィゴ・モーテンセンは「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン役としてなら知っている方も多いのではないでしょうか。。
◆映画のテーマである「ユダヤ人迫害」がはじまったのはいつか。
ひとつの指標として1935年のニュルンベルク法の公布を挙げることができます。
8分の1までの混血をユダヤ人として、公職追放や企業経営の禁止を定めました。
また、おそらく劇中でも描かれた、1938年のユダヤ人弾圧事件もひとつの指標です。
ユダヤ人の商店やシナゴークが襲われ、割れたガラスがキラキラ光っていたので「水晶の夜(クリスタル・ナハト)」と呼ばれます。
綺麗な名前とは裏腹に、そこで行われていたのは一方的な破壊、虐殺、略奪でした。
▼1938年11月10日、暴動で破壊されたユダヤ人商店のショーウィンドのガラス(Wikipedia)
◆ハルダーはナチスへの疑問を持ち続けていました。
一方で、大学で「国家社会主義」に反する書物が焼き払われても、身体を張ってまでこの流れを止めることはありませんでした。
もしかすると、優しい常識人である大勢の「善き人」が、自分の身かわいさに体制に流されたことが、ホロコーストや侵略戦争を生んだのではないか。
映画には、厳しい批判も込められているように感じます。
確かに、大勢の民衆はナチスの凛々しいパレードに心奪われ、ヒトラーの指導力を無邪気に歓迎していた人々も多いでしょう。
しかし、全ての人の心の内も完全に統率するなど不可能です。
多くの人々は「なにかおかしい」「これは悪いことかもしれない」と薄々わかっていながら、気付いていない振りをしていたのではないか。
本当に「善き人」として生きるとは、どうゆうことか。考えさせられます。
◆最後に印象的な1シーンを。
ユダヤ人のモーリスが、国外逃亡をためらうシーンがありました。
私は見ていて「危ないから、今のうちに逃げてくれ」と思い、やきもきしていました。
しかし、当時にしてみれば誰もホロコーストなど予見できません。
弾圧が強まっても、流石にそんな酷いことをするはずがない、という気持ちもあったのだと思います。
多くのユダヤ人が、状況が悪化するのを感じつつも、財産や家族のためにドイツに留まった様子が想像することができます。