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世界史の広場

映画『ヒステリア』からみる19世紀イギリスの科学と迷信

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映画『ヒステリア』からみる19世紀イギリスの科学と迷信



『ヒステリア』(2011、イギリス・フランス・ドイツ)
原  題:HYSTERIA
監  督:ターニャ・ウェクスラー
上映時間:100分
おすすめ:★★☆

◆舞台は19世紀末、ヴィクトリア朝(1837-1901)のイギリス。
当時、ヒステリー(ヒステリア)は女性がかかりやすい「病気」とみなされていました。

たった100年前の話ですが、当時の「科学」知識や倫理観が現代とかなり違っているのが興味深い。

例えば、細菌の存在は一般に知られておらず、「細菌説」というひとつの新説に過ぎませんでした。
それもそのはず、細菌が発見されたのはまさしくこの時代なのです。

ドイツの細菌学者コッホは結核菌(1882)、次いでコレラ菌(1883)を発見。
狂犬病の予防接種(1880)で有名なフランスの細菌学者パストゥールも同時代人です。

▼細菌学の父、ロベルト・コッホ


政治面ではグラッドストンとディズレーリが活躍し、大英帝国がインドやエジプトを植民地にしていった時代です。

◆映画は1880年代に電動マッサージ器が誕生した史実を元に、人間関係を大きく脚色した物語になっています。
物語の主人公は若い医師モーティマー・グランビル。
彼は細菌説を信じ、院長の命令に背いて患者の包帯を変えようとしたことで、かわいそうなことに勤めていた病院をクビになります。

次の職場に選んだのは、ヒステリーと診断された女性たちに「特別なマッサージ療法」を行うクリニック。
このマッサージは女性の性器を刺激して、オーガズムに至らせるというものです。ほぼ性風俗ですね。
ただ、医者は大まじめ。真剣にマッサージをします。そこがまた面白い。

クリニックでのマッサージのやりすぎによって手に炎症ができてしまったモーティマー。
彼は手の代わりに、発明されたばかりのエネルギー(電気)を使った新しいマッサージを考案する。
現代ではアダルトグッズとして知られる、電動マッサージ器(バイブレーター)の誕生です。

ちょうど、アメリカの発明家エディソンの蓄音機(1876)や電灯(1878)の発明が、数年前の出来事です。

◆史実の忠実な再現ではないですが、コメディタッチで見やすく、また随所で当時の社会を感じることができます。

18世紀末というと、第二次産業革命の真っ只中。現代につながる新しい技術が次々に発明され、科学の進歩も著しい。
その半面、男尊女卑や古めかしい迷信も幅を利かせている。
女性には参政権も与えられず、女は結婚し、家事をして子どもを産めばそれでよいと考えられていた。

骨相学なる、頭蓋骨のかたちで性格を推測するというエセ科学もありました。
また、女性から子宮を摘出すればヒステリーはなくなるという恐ろしいことまで真面目に議論されていたのです。

▼1895年、英英辞典に掲載された骨相学に基づいた脳の地図


この時代を無知蒙昧だと馬鹿にするのは簡単です。
しかし、血液型占いや風水が流行る現代が、骨相学を笑えるでしょうか。

この映画からは現代への批判も感じ取れます。
今の我々が常識だと思っているものは、100年後の人々にとってもほんとうに常識なのでしょうか。

いまだに日本は女性への社会的な差別がなくなりません。
過去の姿を通して、我々が現代の常識を疑うことを続けないと、100年後の人々にコメディの種にされてしまうかもしれません。

エンドロールの年代別電動マッサージ器紹介は一見の価値ありですよ。
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